「認知症を患っている母の食事拒否に対して、どう接すればいいかわからない。」
「認知症罹患者の食事介助での注意点や工夫点を教えて欲しい。」
などのお悩みはありませんか?
この記事では、認知症の食事ケアについて様々な課題をもとにお話しします。
目次
原因疾患別の特徴
認知症は原因疾患ごとに、特徴が異なります。
特徴を理解して、一人ひとりに合ったケアを心がけましょう。
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症の初期症状は「もの忘れ」が一般的です。
食事の食べ忘れなどが増え、体重減少がみられるケースも少なくありません。
血管性認知症
血管性認知症は、脳血管障害を発症することによって起こることから、四肢の麻痺や嚥下機能の低下を有している方が多いです。
食事を一人では食べられない状態になり、食事介助が必要になるケースが多いです。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症では、早期から嚥下障害を伴い、進行とともに重症化するケースが多いです。
こちらも、食事介助が必要になるケースが多いです。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症では、毎日同じ行動を繰り返す特徴があります。
甘いものや味の濃いものを毎日食べるなど、食嗜好の変化が起きることもあります。
認知症と摂食障害
アメリカの研究では、認知症高齢者を1年ほど経過観察したところ、
85.8%に摂食障害が認められたそうです。
摂食障害により食事を十分に摂取できないと、栄養不足が起こり予後が悪くなる可能性が高くなります。
また、誤った食形態で、食事を提供してしまうと、
食形態を高く設定した場合は、誤嚥リスクが上がり誤嚥性肺炎などの病気になる可能性が高まります。
逆に食形態を低く設定すると、残存機能の維持ができずに、機能低下の速度が速まることで体調が悪化してしまいます。
在宅で介護される場合は、かかりつけ医などと適切な食形態を選択するようにし、
認知症者へ無理のない食事を提供することが大切です。
食べ忘れとそれによる食事の催促への対応
認知症では食事を忘れ、催促されることがよくあります。
食事の催促をされたときに、一番やってはいけないのが
「もう食べたでしょ!何回言ったらわかるの!」と感情的になり、相手を否定することです。
認知症者は感情に敏感なため、感情に身を任せるのは良くないです。
また、認知症初期の段階では「ご飯食べたっけ?」「ご飯まだ?」と確認するような訴えが多いです。
その段階であれば、食事を食べたことを理解できるように説明することで落ち着く場合もあります。
次の段階で説明しても納得できず怒り出すケースがあります。
その場合は、認知症者が食べた食器を洗わずに残しておき、その都度確認してもらったり、
「どのくらいお腹空いてる?」と空腹度を確かめると意外と空腹でないといった場合もあります。
また、ご飯の話題を逸らすように、
「料理に使うお湯沸かしてるから、沸騰したら火止めてくれる?」「今日の晩御飯何にしようか?」
など、行動や話題を変えると、「ご飯を食べたい!」という意識から別の意識へ変わり落ち着く場合もあります。
それでも食事の訴えが治まらない場合は、一口サイズの菓子や果物を食べてもらう方法や、
そもそも1日4食、5食と食事回数を増やしてしまう方法もあります。
易怒性が強く手に負えない場合は、医師と相談し服薬調整をかけることをおすすめします。
食事拒否への対応
認知機能の低下により、何をすればよいかわからなくなる場合があり、
「口を開けて食べる」という動作への適応ができなくなり、食事拒否に見えてしまうことがあります。
そのようなときは、口にスプーンを当てるなど軽い刺激を与えることが効果的です。
無理やり食事を食べさせるなどすると、その経験が嫌な経験として残り、食事拒否の原因になることもあります。
食形態が合っていなく食べにくいなども嫌な経験の一つになるため注意が必要です。
また、周りの環境が気になって食事に集中できない場合は、食事のみに集中できるような落ち着いた環境を整えるようにしましょう。
テレビ・音楽を消したり、目の前に新聞・雑誌を置かないなど、聴覚的・視覚的配慮だけでなく、
壁に向かって座ってもらう、冷暖房の風を当てないなど、座る位置や環境にも配慮しましょう。
きざみ食、ソフト食、ミキサー食などの食形態は、
「料理ではない」と捉えられ、食事拒否されやすくなります。
その場合は、今まで使用していた食器、スプーンを使うことで「食事として認識」してもらうことが大切です。
また食事の香りなども食べるきっかけになります。
他にも、声掛けの工夫や、食事前の準備をルーティン化する、口腔ケアを行うなどの方法もあります。
口腔内に食べ物をため込んでしまう場合の対応
認知症者では、食事の途中で口の動きが止まってしまうことがあります。
その場合は、「お口止まってるよ」「お口動かしてね」と声をかけたり、頬を優しくさすったりしてあげましょう。
それでもため込みが続く場合は、誤嚥を防ぐために口腔内から食事をかきだして食事を終了させましょう。
食事のため込みの原因としては、
・食形態が合っていない(高い)
・しっかり覚醒できていない
・食事の途中で食べていることを忘れてしまう
・摂食嚥下機能が低下しており、思うように食事ができない
・一口大より大きいサイズを口に入れている
などが考えられます。
これらに注意してため込みを防ぐようにしましょう。
食器により摂取量が異なる場合の対応
認知症が進行すると、「一つの皿だけ食べる」「手前の料理だけ食べる」など、特定の物しか食べ無くなるケースがあります。
認知症者は、料理の品数が多いと混乱してしまうこともあるため、
1品ずつ料理を提供する、ワンプレートに盛り付ける、弁当箱を使用するなどの工夫が有効です。
また、カレーライスのご飯だけを食べてルーを残してしまうといった、食べ方自体を忘れてしまっている場合もあります。
そのような場合は、ご飯を平たく盛り、カレールーを全体にかけるなどして、
どのように食べてもその料理として食べられるような盛り付けにすることも効果的です。
途中で食べるのをやめてしまう場合の対応
認知症者では、食事の途中で食べるのをやめてしまうことがあります。
食事量が合っていない場合や、集中力の低下が原因として考えられます。
決まった量盛り付けることや、落ち着いた環境を作ることなどが大切です。
また、集中力が数分しか持たない場合もあります。
そうすした場合は、食事時間を減らし、食事回数を増やすなど、少量ずつ食べさせてあげるという方法もあります。
食事を嫌な体験にさせないためにも、無理やり食べさせることだけはやめましょう。
まとめ
認知症者には、さまざまなケアをしてあげる必要があります。
食事ケアもその一つで、介護者の方はさまざまな悩みを抱えていると思います。
その悩みを一人で抱え込むのではなく、医療スタッフや身近な人などいろいろな人を頼ることも大切です。
認知症者、介護者ともに気分よく過ごせるように対処法を整えておきましょう。
参考
田村佳奈美. ”病院・介護保険施設・在宅で活用できる 高齢者の栄養ケア ポイントBOOK”.メディカ出版,2024年5月,164~181ページ
↑認知症のことだけでなく、高齢者の栄養ケア、アセスメント、口腔ケア、褥瘡、筋力低下など様々なことが分かりやすく書かれています。病院・介護施設で働く管理栄養士の方は持っておいて損はない1冊だと思います。
また、認知症のことに関しても、さらに細かく書かれていますので、気になった方は是非購入してみてください。