褥瘡の治療には、看護、リハ、薬剤、栄養など他職種での管理が重要です。
栄養管理では特定の栄養素を強化して、肉芽形成や皮膚の保護をサポートする必要があります。
そのような褥瘡治療に関する栄養管理をしっかり理解できていますか?
この記事では、褥瘡治療の栄養管理についてお話しします。(専門的な内容となっています)
目次
三大栄養素の補給について
褥瘡予防・管理ガイドラインの栄養に関するクリニカルクエスチョンでは、
「褥瘡の治療に高エネルギー・高蛋白質の栄養補給を提案する。(2C)」
と明記されています。
エネルギー
エネルギーの不足は筋肉や脂肪の分解を促し、創傷治癒を遅らせることから、
褥瘡の栄養管理では、高エネルギーの確保が必要とされています。
NPIAP(NPUAP)/EPUAP/PPPIAガイドラインでは、褥瘡治療のためにエネルギー30~35kcal/kg/日を推奨量としています。
エネルギーを増やす簡単な方法としては、主食の盛り量を増やすことが考えられます。
ご飯を1日3回食べている場合は、1回40g増やすことで1日トータル200kcal程度増やすことができます。
たんぱく質
たんぱく質の不足は、体たんぱく質の合成低下をもたらし、皮膚や肉芽の形成を遅らせることから、
褥瘡の栄養管理では、高たんぱく質の確保が必要とされています。
NPIAP(NPUAP)/EPUAP/PPPIAガイドラインでは、褥瘡治療のためにたんぱく質1.25~1.5g/kg/日を推奨量としてます。(他疾患を考慮の上で)
たんぱく質を増やす簡単な方法としては、主菜の盛り量を増やすことが考えられます。
焼き魚であれば20g増やす(例:60g→80g)だけで、約5gほどのたんぱく質を増やすことができます。
脂質
脂質の摂取量については、特に示されていません。
しかし、エネルギー摂取量を増やすために、脂質の摂取量を増やす場合があります。
炭水化物
炭水化物の摂取量については、特に示されていません。
脂質同様に、エネルギー摂取量を増やすために、炭水化物の摂取量を増やす場合があります。
微量栄養素の補給について
褥瘡の治療においては他疾患を考慮したうえで、以下の微量栄養素などを補給してもよいとされています。
しかし、褥瘡予防・管理ガイドラインでは、以下すべての栄養素において現状必要量の設定はされていません。
亜鉛
亜鉛には、皮膚の新陳代謝に作用し、創傷の修復を促進する作用があります。
亜鉛の不足により、創傷治癒が遅れてしまう可能性があるため、
日本人の食事摂取基準の推奨量を不足しないように摂取することが大切です。
ビタミンC(アスコルビン酸)
ビタミンCには、コラーゲン合成や抗酸化作用があります。
肉芽形成や上皮化形成に効果が期待できるため、赤色期や白色期での使用が最適と考えられています。
また、不足すると回復に時間がかかるとされているため、
日本人の食事摂取基準の推奨量を不足しないように摂取することが大切です。
アルギニン
アルギニンは、侵襲下における条件付き必須アミノ酸とされており、
たんぱく質、コラーゲン合成などの作用があります。
アルギニン投与により褥瘡が治癒したとの研究報告もありますが、
アルギニンは黒色期や黄色期で効果を発揮する可能性が高く、摂取のタイミングも重要であると考えられています。
また、高度侵襲下ではアルギニンにより炎症反応が助長されるリスクがあり、慎重に使用する必要があります。
L-カルノシン
L-カルノシンは肉芽を形成する線維芽細胞の寿命を延長する効果や、
血管内皮細胞からの一酸化炭素産生を刺激することで、褥瘡治癒を促進させると考えられています。
n-3系不飽和脂肪酸
n-3系不飽和脂肪酸は炎症性サイトカインを抑制する作用があります。
また、n-3系脂肪酸にはマクロファージによる線維芽細胞の増殖を刺激することで、コラーゲンの合成を高める作用を持つとされています。
コラーゲンペプチド
コラーゲンペプチドはコラーゲン合成を促進する作用があり、創傷治癒促進に働くとされています。
また、コラーゲンペプチドが直接皮膚の材料になることで、褥瘡の早期回復に期待ができます。
その他
その他にも、ビタミンA、鉄、銅、グルタミン、HMB、オルニチンが、
褥瘡治癒促進に作用するとして注目されています。
いずれの栄養素も他疾患との相互作用を考慮したうえで、適切に選択することが大切です。
栄養補助食品の活用
これらの栄養素を食事のみで確保することは難しいです。
そこでこれらの栄養素が入っている栄養補助食品を活用することで、
その効果に期待ができ、褥瘡の治癒に役立つ可能性があります。
褥瘡治療に使える栄養補助食品は以下の記事でまとめています。
【褥瘡対策】管理栄養士おすすめ栄養補助食品《10選》まとめ
褥瘡治癒に重要な栄養素についてまとめました。
特に重要な栄養素はエネルギーとたんぱく質で、
その他に、亜鉛、ビタミンCは不足しないように、アルギニンなどの特定の栄養素を必要に応じて選択することが大切です。
褥瘡対策は重要な栄養管理の一つですので、管理栄養士の皆様は褥瘡予防・管理ガイドライン、褥瘡ガイドブック、褥瘡ケアの参考本を持っておくことをおすすめします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
参考
日本褥瘡学会,「褥瘡予防・管理ガイドライン 第5版」,照林社,2022年4月,28~29.64~65ページ
一般社団法人 日本褥瘡学会,「褥瘡ガイドブック 第3版 褥瘡予防・管理ガイドライン(第5版)準拠」,照林社,2023年6月,138~140ページ
佐々木舞子,「これならわかる!褥瘡ケア」,ナツメ社,2023年10月,88~90ページ