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高齢者の食欲不振の原因と対策【管理栄養士直筆】

「どうして食欲が無いの?」

「母の食欲が無い原因が分からない…」

私も、病院で管理栄養士をやっているときは食欲の無い患者に悩まされていました。。

でも、そんな経験を皆さんと共有することで誰かの助けになるのではないかと思いました。

そこでこの記事では、高齢者の食欲不振の原因とその対策について書いていきます。

原因① 味覚や嗅覚など感覚の低下

加齢により、味覚や嗅覚が低下するのは自然な変化です。

また、近年では疾病や複数の服薬も、味覚の低下に関係することが分かり、加齢による感覚低下より影響があると言われています。

味覚など感覚が低下することにより、食事を美味しいと感じにくくなり、食欲が落ちてしまいます。

感覚低下による食欲不振の対策

食事に興味を持ってもらうために、好きな具材や料理を取り入れるようにしましょう。

味覚や嗅覚が低下していても、好きな料理なら食べられるという方は多いです。

病院では、ラーメンやカレーライスの日はほとんどの方が完食されていて、看護師の方も驚いていました。


また、一人で食事を食べるのではなく、みんなで食事を食べる事も大切です。

食事が楽しいと思うことで、食欲を増進させることができます。

原因② 咀嚼・嚥下機能の低下

不味そうにご飯を食べるおじさんのイラスト

食べ物は咀嚼をすることで、飲み込みやすい形(嚥下可能な状態)になります。

また、咀嚼をすることで口の中で味が広がり、香りが増します。
ご飯なども、噛めば噛むほど甘味が出てきますよね。

しかし、高齢になるに従い、歯の喪失が起こり、咀嚼に必要な奥歯が無くなっている方が多いです。

それにより、咀嚼がしにくくなってしまいます。

また、義歯を装着した場合でも、しっかりと咬合することができないため、咀嚼困難に至ります。


さらに、高齢になると、唾液分泌量が低下してしまいます。

唾液分泌量が低下すると、咀嚼嚥下がしにくくなるため、食欲が低下してしまいます。


また、加齢による筋力低下によって、嚥下能力も低下してしまいます。

嚥下能力の低下により、誤嚥がしやすくなります。誤嚥が多くなると食事が煩わしいと感じてしまい、食欲が低下します。

咀嚼・嚥下機能低下による食欲不振の対策

親知らずを除く永久歯28本のうち20本が残っていれば、通常の食事に問題が無いと考えられています。

「歯の本数別にみた「何でもかんで食べることができる」人の割合」8020運動とは,e-ヘルスネット(厚生労働省)より引用

このことから歯科の分野では、80歳になっても自分の歯を20本保とうという「8020運動」が展開されています。

歯の喪失を増やさないように正しい歯磨きなどの口腔ケアに注力しましょう。

すでに歯が少なくなってしまっている場合は、適切な食形態の選択をしましょう。


また、食事前に嚥下体操(パタカラ体操など)をして、嚥下能力を維持するように心がけましょう。

原因③ 消化吸収機能の低下

胃もたれのイラスト(女性)

高齢になると、唾液・胃液・膵液の分泌が減少し、たんぱく質・脂質・炭水化物の消化吸収機能が低下します。

そうすると、食事を食べても消化吸収が追い付かなくなり、「もう食べないで」と脳に信号が送られてしまい、食欲が低下してしまいます。


また、胃酸の逆流による胸やけなどが多くなります。

食事を摂ると「気持ち悪いな」と感じるため、食事を食べる量が低下してしまいます。

消化吸収機能低下による食欲不振の対策

消化吸収を助けるためにも、よく噛む事が大切です。

一口あたり30回ほど噛んで、食事を細かくしてから食道や胃に送り込み、少ない消化液でも消化できるようにしましょう。


また、胃酸の逆流を防ぐためにも、脂肪の多い食事や刺激物などは極力控えるようにしましょう。

原因④ 身体活動量の低下

後期高齢者のイラスト(女性)

高齢になると、足腰が悪くなることから、体を動かす機会が減ってしまいます。

活動量が減少すれば、その分エネルギーも消費されません。

そのため、食事もそこまで必要なくなります。

よって、食欲が湧かないため、食事を多く食べられなくなってしまいます。

身体活動量による食欲不振の対策

椅子に座ったままできる体操などをするようにしましょう。

また、身体を動かさなくてもできるクイズや手芸などをして、脳に刺激を与えるようにしましょう。

仮に何もしないで過ごしてしまうと、気力が低下してしまい、食への興味も薄れてしまいます。

身体を動かすことが困難でも、日々の楽しみを見つけるようにしましょう。

原因⑤ 病気・服薬の影響

病気のお爺さんのイラスト

消化器疾患により、消化液が減少して食欲が低下している可能性や、

腎不全などによる電解質異常によっても食欲が低下する可能性もあります。

また、抗がん剤や抗生物質など、薬によって食欲が減衰してしまっている可能性もあります。

病気・服薬による食欲不振の対策

病気や服薬による食欲低下は改善しにくいです。

病気・服薬が原因で食欲が減衰している場合は、医師や看護師に相談するようにしましょう。

治療方法の変更なども一つの選択肢になってきます。


また、食事面では、栄養補助食品の活用などが有効になってきます。

少量で様々な栄養素を補うことができるため、医療・介護現場では治療の選択肢の一つとして活用されています。

食欲不振による低栄養に気を付けよう

体重計に乗る人のイラスト(おばあさん・痩身)

食欲の低下は、食事摂取量の低下につながります。

食事摂取量が低下すると、体重の減少栄養状態の悪化につながり、低栄養状態に陥りやすくなります。


また、食欲低下により、食嗜好の偏りが顕著に表れる場合もあります。

好きなものだけ食べる。という事を繰り返していると栄養バランスの偏りが生じ、ビタミン・ミネラルなどが不足することが多いです。


栄養バランスの乱れに注意し、食欲不振を改善するようにしましょう。

難しい場合は栄養補助食品の活用も検討して、ゆっくり焦らず見守ることが大切です。

栄養補助食品(補食)とは【管理栄養士解説】

まとめ

高齢者の食欲不振の原因と対策をまとめました。

食事を食べてくれない人を目の前にすると、大丈夫かな?と焦ってしまいますが、

まずは落ち着いて、ゆっくりと寄り添ってあげることが大切です。

心配な場合は、かかりつけ医などへ相談するようにしましょう。

参考
高齢者の食欲低下について~年を取るとどうして食欲がなくなるの?~(国立長寿医療研究センター)
・「多賀昌樹,山田哲雄,内山麻子,佐藤七枝.”高齢期”.- サクセス管理栄養士講座 – 応用栄養学 ーライフステージ別ー.第一出版,2017,139-141」